本誌連載

私を変えた言葉  「一期一会」  椎野  実  氏

私を変えた言葉 椎野実氏

椎野  実  氏

Shiino Minoru

1929年、福岡県生まれ。
九州電力株式会社勤務時代から79歳の現在までアマチュアカメラマンとして活動。
取り扱うテーマは公害、伝統工芸などと幅広く、常に「リアリズム」を追及している。
(社)日本写真協会正会員。

〜二度とない瞬間をフィルムに残す〜

   人は生きている間、様々な場面でたくさんの「一期一会」を経験していると思います。半世紀以上カメラを構え続ける私にとっては、シャッターを切る瞬間こそまさに一期一会と感じています。
   20歳で就職して間もなくカメラを持つようになった私は、仕事と並行しながらアマチュアカメラマンとして活動を続けていました。そんなある日、熊本県の水俣で蔓延する謎の病気を取材するカメラマンに声をかけられました。「公害」という言葉がまだ無かった時代です。私達は他の仲間とアマチュア写真家集団「フォト・アイ」を結成し、3年をかけ水俣の実態をフィルムに納めました。やがてそれらは第一回国連人間環境会議で大きく取り上げられ「胎児性水俣病」として世界に知られることとなったのです。しかしそれはスランプへの入り口でもありました。
   水俣病の取材後は求めるテーマがつかめずに苦悩しました。今はスランプを脱し、光や角度によって相貌が無限に変化する「能面」の奥深かさに惹かれてからは、ただ一つの表情を追いかけてシャッターを切り続けています。
   私がアマチュアを貫く理由は、能面から生まれる表情のように「二度とないタイミング」を時間に制約されずに追い続けたいからです。写真の極意は、最高の瞬間との出会いをフィルムに残せること。だから私は自分の思うままに写真を撮り続けるんです。