スプーン一杯の生涯と共に自然のままのハチミツを求めて。
無理に採らず無駄にも採らずたどり着いた自然主義養蜂
日本のハチミツ自給率はわずか5%程度。国内に養蜂家そのものが少ないことにも、「手がける人が見える本物のハチミツ」を手に入れるむずかしさがある。
訪れたのは福岡県糟屋郡の久山養蜂場。矢部勝さんは養蜂家として30余年、本物のハチミツを追求し続けている。
「私の養蜂は蜂に任せた自然主義が基本。巣箱をいじるのは最低限に抑えています」
それはシンプルに聞こえて、ベテランにしかなせない愛情あふれる養蜂術なのである。
自然を相手にする養蜂業は、手間がかかる割に生産性を上げるのが困難でリスクも高い。ハチミツの担い手である働き蜂の体長は13ミリ前後、花の盛りには約40日といわれる短い生涯の間に小さな一匹がつくるハチミツの量はわずかにティースプーン一杯。天然ハチミツが希少なわけだ。そのため、蜂の数を効率よく増やし、より多くのハチミツを採る養蜂のテクニックも数々ある。
「数が減った2つの巣箱の蜂をひとつに合同したり、女王蜂の羽を切ったり。作業する人間側に効率の良い方法を行っていたこともありますが、結局やめました」
巣分かれの際、羽を切られた女王蜂は飛べずに巣箱からよたよたと這って出る。そこに何千匹という働き蜂が同行し、巣箱からどっと、まるでバケツの水を返したように流れ出る様子を見てしまったのだという。本当にかわいそうだった――。そして矢部さんはこう続ける。
「私は蜂を飼っているのでなく、蜂に養ってもらっている側ですから」。
完熟した本物にだけに香る蜜蜂が巡った花の軌跡
蜜蜂は一生の間に花を約3万回訪れる。採った花蜜に酵素を加え、巣穴に溜め、さらに小さな羽を羽ばたかせて風を送り、濃縮を促すこと3〜4日。水分量が20%以下になったところで巣穴を密閉する。収集、転化、濃縮。本物とは、こうして自然のままに蜜蜂が完成させたハチミツだけを呼ぶ。
「だから、たくさんは採れない。貧乏しよりますよ(笑)」
甘味料を加えて増量したもの、生産性向上のために濃縮を待たず採蜜したり、過度に熱を加えて成分を損なったもの、また、蜜蜂に砂糖水などのエサを必要以上に与えてつくらせたもの。規約のグレー部分をかいくぐり、「品名/ハチミツ」のラベルを付けたものは多い。しかし、一口食べれば気づくだろう。本物のハチミツには、素朴さの中にうっとりするような風味と香りがある。それは、けな気な蜜蜂がたどった花の軌跡そのものだ。
県内の養蜂場は4月下旬頃から今年のハチミツを絞りはじめる。絞りたてはさらに希少で手に入りにくいが、最寄りの養蜂場に問い合わせてみるといい。手数をかけてでも味わってみる価値は十分にある。
■住所/糟屋郡久山町大字山田855
■電話/092-976-0655










